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岸見一郎、古賀史健『嫌われる勇気』ーー 「自己啓発の起源にして頂点」そして「極限のアンチテーゼ」を読む

こんにちは、Mistirです。
読書録その10

岸見一郎、古賀史健『嫌われる勇気』

ぶっちゃけ、クソ要素のオンパレードですよね。

「話題沸騰」の「自己啓発」、「泣ける」と「評判」のアドラー「心理学」で、挙句にタイトルが『嫌われる勇気』
偏見じみた言い方だけど、愛書家は敬遠するんじゃないでしょうか。僕の友達の愛書家が敬遠してました。
僕が愛書家かどうかは別にして、僕も敬遠してました。

でも、断言します。
この本は、そういった理由で敬遠するには本当に勿体無いレベルの本です。

 

敬遠してた僕も、本屋でパラパラと読んでみたんですが……明らかにそれだけでも「とんでもねえレベルのこと」言ってるってわかるんです。その場でレジに持って行きましたね。

僕はわりと色んな本を読むんだけど、自己啓発系の本も結構読む。
その中で、かなり有名な『道は開ける』についても前に書いた。

で、「6割はまあオススメな本なんだけど……ねぇ」と歯切れの悪いことを書いた。
もっとぶっちゃけると、「コレ読んで怒る人」とか「コレ読んで逆に元気なくなる人」は絶対にいると思うんだ。
……読めばわかると思う。「ああ、分かる!」って人も「全く分からないんすけど」って人もTwitterでリプ送ってくださいね。反応しますから。

でね。
この『嫌われる勇気』は……
「人を選ぶ」とか、そういうレベルをもはや超えてます。

こんなレベルの良書……

 

 

99%、おすすめです!!!!!!!

「100%ちゃうんかい!」っていう声が聞こえそうだけど、その理由に関してもあとで書きますねw
いや、気持ちとしては1000%くらいオススメなんですよ。でも、あえてちょっとだけ引いたトコロからも語ってみたい。


よし、とりあえず!
まずは大絶賛させてくれ!

そもそも、だ。
「小説」として読んでも、果てしなく面白い!
ある青年と哲人の対話なんだけどさ。


この「青年」が熱い。

 

熱いのにウジウジしてて妙に話し方が演劇じみてる。
要は俺らや!!
僕や!!!

……のわりに、この「青年」、言ってることは結構マトモなのである。
そのマトモっぷりを「哲人」がバッサリ否定するのが本当に面白い。

 

そして、対話という姿を取りながら確実に「物語」は前進していくのです。
「青年」が本当の人生を歩み始めるという、その「物語」が。

 

中身の話に入りましょう。

もうね。
まず「原因論」から「目的論」への転換。
これだけでも読む価値ありますよ。


このことはAmazonのレビューとかも含め、色んなところで語られまくってるんだけどさ。
「背が低いからモテない」。
この理論は、アドラー大先生に言わせればこうです。
「モテない理由として『背が低い』を持ちだして、『背が高かったらモテる』という可能性の世界に逃避して生きてる」
もうこれだけでもコペルニクス的転回!……なんだけど。
もう語られてることは放置しておいて。僕のブログはニッチなところを突いていこうと思います。

この本が最ッ高にクールなのは、「ごく一般的な自己啓発ならば積極的に肯定していることを下手すりゃ全否定してる」ってことなんです。

「哲人」はこう言います。

他者から承認を求めてはいけない

と。

他者の期待など、満たされる必要はない

と。
ちなみに、凡百の自己啓発書が言うような「他者の期待なんてどうでもいいじゃん、気楽に行こうぜ」みたいなクソ優しい、かつ全く記憶に残らないことを言ってるわけじゃないことは読めば分かります。

この「哲人」に対し、「青年」はこう言います。

違う!それはわれわれの社会を根底から覆すような議論です!いいですか、われわれは承認欲求を持っている。しかし他者から承認をウケるためには、まずは自らが他者を承認しなければならない。他者を認め、異なる価値観を認めるからこそ、自らのことも承認してもらえる。そうした相互の承認関係によって、われわれは「社会」を築き上げているのです!

妙に言い方は熱苦しいけど、言ってるコト自体は「凡百の自己啓発なら肯定的に語られてさえいる」内容に思える。

ちなみに、この「青年」、こう続ける。

先生、あなたの議論は人間を孤立へと追いやり、対立へと導く、唾棄すべき危険思想だ!不信感と猜疑心をいたずらに掻き立てるだけの、悪魔的教唆だ!

もうなんなのこの人。怖い。というより面白い。

そして「哲人」。

ふふふ、あなたはおもしろいボキャブラリーをお持ちだ。

お前らの方が面白いわ!

と、下手なライトノベルより個性的なセリフ回しで対話は進みます。

 

他にも、哲人は言います。

人は他者からほめられるほど、「自分には能力がない」という信念を形成していく。 よく覚えておいてください。

凄いでしょ?これ。
で、これ読むと僕らも「反発」するよね?
特に脳科学とか教育学に少しでも触れたことがある人は、ここに大いに反発すると思う。
ちなみにここでの「青年」。

 どこにそんな馬鹿が居ますか!?逆でしょう!ほめられてこそ、自分に能力があることを実感する。当然じゃありませんか!

 

うるせえ。

なんというか、僕らの反応を先読みした上で、5倍くらいにして出力してくれるんだよねw 
ちなみに、「褒められるほど『自分には能力がない』という信念を形成していく」、読めば納得するので是非読んでください。

 

さて。
この「対話式」かつ「演劇じみてさえいるオーバーな反発」っていうの、「自己啓発」として隙のない完璧な構成だと思うんです。

 

何が言いたいかっつーと、「他の自己啓発」がダメなとこって「こっちの話聞かねえ」んですよ。
スゲー人がスゲーこと言ってて、「いやいや……」とか言いたくても、活字の向こう側で作者様たちはニヤニヤしてるんすよ。

それが辛いんです。

でも、この本は「青年」が「濃い俺ら(卑屈な人たち)」を担ってくれてるおかげで滅茶苦茶バランス取れてるんです。
たまにあるつまんねぇ対話は、「相手をヨイショし始め」ます。ギリギリだけど認め合いながら進んでいく議論。「物語」としてそもそも面白くないわけがないし、のめり込めないわけがない。

そこに上乗せされる「アドラー心理学」の衝撃と深さ。
「自己肯定」の全否定とか、滅茶苦茶面白いっすよ。
「自己肯定」は嘘だって断言するんです。

つまり、僕はこの本を一冊の「解説書」として評価してるし、「自己啓発」として評価してるし、「小説」として評価してる。もう、本当に贅沢な書物なんです。

しかも、それだけ詰まってるのに「実用的」です。

僕の信念として、基本的には「本一冊ごときが思想を変えてたまるか」と思ってるんです。
何十冊、何百冊と読みましたが、「良い本」はたくさんあります。
でも、「思考を変える」なんて本一冊でできるもんじゃないんです。本を読んだ知識、あるいはあらゆる経験の蓄積こそが、我々個人なのですから。
でも、その中に『論理哲学論考』とか『ツァラトゥストラ』とか、あるいは『共同幻想論』とか強烈かつ難解な本があって、そいつらが根本的に僕らを変えたりってことはあり得る話ですね。難解な古典ってそれくらいのパワーがあるものが多い。一種の「劇薬」だ。

 

……でも。この本は、なんというか……

とても、とても簡単なのに。


「劇薬」に十分、成り得ます。

 

読む前と後で、同じ人間でいられる保証はありません。
人によっては自分の全否定になるかもしれません。

 

……さて、ここから「1%の」オススメできない理由を言います。

この本……
難しいんです。

実践するのが、鬼のように難しい。
例えば「承認欲求を捨て去る」、できますか?

読めば読むほど、難しくて分からなくなるんです。
書いてることはとても簡単なのに。

あとは……鮮やかすぎて、逆に「騙されてる」気分になります。
例えば「目的論」ですけど、僕レベルにひねくれると「それって冤罪で刑務所に突っ込まれて死刑待ってる人にも同じこと言えるの?」と言いたくなるんです。
で、考えて考えて……「言えるわ」って結論になるんですけど。
「……いや、言える……言える?んん??」と。そうなっちゃう。

ってことは、もっともっと何度も読まないといけない。
僕は5回くらい読んでるけど、もっともっと何度も読まないといけない、読む価値のある本だと本気で思います。

 

逆に言えば「極限状況を想定しないと穴を見つけることさえ難しい論理」ってことだからね。
徹底的にこの本を「モノ」にしたい。

この本を読むと、幻想に生きることが難しくなります。
可能性の世界に生きられなくなるんです。
二次元の世界は別ですが。

「もしも」の世界に逃避する僕らを、この本は徹底的に叩き潰す。
でも、その分……現実に、生きることができるようになるかもしれない。
そういう本なんです。

あと……もうひとつ。
「好きな本は『嫌われる勇気』です」って言いたくねえ!
あ、この感情の時点で『嫌われる勇気』の内容実践できてねえwww
いや、僕はその自分さえも「受容」するッ!
「受容」した上で言おう!
僕はこの本が大好きです。
だからね、みんな読もう。敬遠せずにさ。ホント良い本だよ。「全日本売れてる本を焼いて回ろう協会会長」の僕がおすすめするよ。
嘘だよ。
おすすめはホントだけどね。

 

※以下余談


ちなみにこの本、最初に読んだとき「もっと良いタイトルあっただろ……」と思って本気で幾つか適切なタイトル考えてみたけど、考えれば考える程『嫌われる勇気』が最適解に見えてくるので不思議です。

……内容が鮮烈すぎて、これ以上合ったタイトルにすると宗教っぽくなっちゃうんですよ。逆方向にアプローチして『対話篇 アドラー心理学』みたいなタイトルだと絶対売れなかっただろうし。

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