Mistir Library

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榎宮祐『ノーゲーム・ノーライフ』ーーラノベ界の「古畑任三郎」を読む

こんにちは、Mistirです。
読書録その7。 

 通称『ノゲノラ』。

1巻〜3巻の内容をまとめて語ろうと思います。

アニメ化もされた人気作で、作者が有名なイラストレーターっていう変わり種の作品。
もちろん自分自身で挿絵も中身も担当してる。

どんな小説かっつーと、「チートやTASを超えるレベルのゲーマーである兄妹が、ゲームで全てが決まる異世界に転送され、無双する話」って感じ。

で、結論から言うと1巻はあまり「声を大にしてオススメと言いたくない」。
面白くない、とは言わない。どちらかと言えば、面白い。
でも、あまりオススメはしたくないです。
2巻、3巻は凄くオススメしたいです。


ついでに言えば、「この小説は現代のラノベの理想的な在り方を示してるんじゃないか?」と思わないでもない。その理由はゆっくり話そうと思う。


僕はニコ動でアニメを観るのが好きなんだけど、1巻の内容に当たる部分(チェス)はかなり「賛否両論」というか、「原作でもいまいち評判が良くない」っていうコメントが目立ってたことと、2巻の内容に当たる部分(しりとり)は絶賛されてた記憶がある。

で、この小説。
基本的に主人公サイドが、絶対に負けない。

負けるビジョンが想像できない。
そういう描かれ方をしている。

これは、例えて言えば「事件を解決できなくて困ってるシャーロック・ホームズが想像できないのと同じだと思って欲しい。
って、シャーロック・ホームズは二作くらいしかまだ読んでないけど……

分かる人にしか分からない例え方をすると、「論破される中禅寺秋彦」って想像して欲しい。

それくらい、主人公サイドは「最強」として描かれてる。

これって何の楽しみ方かっつーと、暴れん坊将軍の楽しみ方なんだよね。
ほら、「暴れん坊将軍」が斬られて死ぬトコロ、想像できないでしょ?

これはいわゆる「主人公無双系」、言い換えると「俺TUEEEEEE系」小説で良く見られる構造なんだけど、この構造、弱点がある。

「凄い!常人の10000倍もの魔力を放出して敵を倒すなんて!」……って感じで主人公の強さを語られても、反応に困るでしょ?俺魔力使えんし。
あと、仮に現実的であったとしても「握力1000キロ」とか言われても……なぁ、ってなる。

よくネタにされてる「主人公無双系」の代表格、『魔法科高校の劣等生』が抱えてる弱点はここなんだよね。
一周回ってネタになっちゃう。

だけど、この構造に……
古畑任三郎」が加わることで、「主人公無双」に違和感が少なくなるのである。
で、この『ノーゲーム・ノーライフ』は「古畑任三郎ラノベ」だと思うのだ。

一言で言えば「倒叙だよねコレ」で済む話なんだけど。
倒叙って言い方僕もググって知ったし、それに実際『ノーゲーム・ノーライフ』は全く倒叙ではないので、柔らかく説明します。


どういう点で「古畑任三郎」なのか。
古畑任三郎は、「あらかじめ犯人が分かっている」作品だ。
そして「その犯人を追い詰める」「過程」を視聴者は楽しむ。

犯罪の解決は、「前提」なのだ。
勝利は、「当然」なのだ。
まあこれは「倒叙」ではない推理小説にも言えることだが……。


ノーゲーム・ノーライフにも似たようなことが言える。
「勝負に勝つ」ことは前提条件。だから、「どっちが勝つんだ!?」とハラハラすることは全くと言っていいほどない。だって主人公サイドに負けオーラが全く無いんですもん。というか「負けると作品否定」ってところまで追い込んでる。

で。
「勝つ」ことは前提で、「どうやって勝つか」は全く分からない。
でも、「事件の全貌(犯人)」が見えているように「ゲームの全貌」も見えてる。後出しも多いけど。
「人間がTAS(理論上可能な限界値でのゲームプレイと考えてください)を超えられるならどうなる?」という、ある種の思考実験の過程がこの小説なんですよ。

で、それがなかなか面白い。

もちろん勢いで理屈を乗り切っている部分は多々あるんだけど、……特に1巻の「チェス」はその傾向が酷かったんだけど……
それでも、面白い。
正直、2巻の勝ち方は相当凄くて、「こんなのよく思いつくな……」と鳥肌モノだった。いや、もちろん突っ込みどころを探せば幾らでもあるんだけど、そんな無粋なことしなくても十分「面白い」。アニメを観た人は分かると思うけど「しりとり」です。アニメの出来も凄く良くて、何度も見ちゃったなあ。


とにかく、「実は握力1000キロなので勝ちました!」みたいな雑なことはしない。無茶苦茶でもきっちり理屈っぽく書いてます。


で、何が「ラノベの理想的な在り方」なのかというと……
まず、批判されやすい「主人公が強すぎる」「努力をしない」という点を、圧倒的な勢いの理屈で乗り切っている点。
魔力がどうのこうのとか、努力の量がどうこうとか語られるより「あ、そんな方法でゲームに勝つのか!」という鮮烈な驚きのほうが、ダイレクトに楽しめる。

もちろんこれって相当、作者に技量がいるものだ。例えば漫画で例えるのもどうかと思うけど、色んな意味で話題のDEATH NOTEで考えると……DEATH NOTEみたいな小説書いて、って言われても無理でしょ?
この作品が「DEATH NOTE」レベルかと言われると僕には判断できないが、でも近いものはある気がする。アレは主人公とL(ライバル)の戦い、っていうストーリーだから根本的に構造が違うんだけどね。

で、僕個人が作品を評価する上で結構モロに考えちゃう要素なんだけど……
作品や登場人物に「執念」や「信念」、強すぎてねちっこいレベルの軸みたいなものがあるか。
僕はチョロいので、そういう要素に弱い。
で、この作品は、滅茶苦茶そういう要素を強調してる。

「人間は弱い」っていう要素を、滅茶苦茶強調してる。

無粋なことを言うなら、「それだけ最強設定主人公が言っても説得力ねーよ」で終わっちゃうのだけど。
なんというか、読んでるとそのツッコミは無粋だな、と感じる。
一本筋が通ってるように思えてくるのだ。
これは感覚的なモノなので、読んでもらうしかないのだけど。


結局、「主人公無双」「異世界転送系」と「批判されやすい」要素のカタマリみたいな作品なんだけど、「筋が通ってて」「圧倒的な理屈を叩きつけてくれるなら」そのパワーに納得せざるを得ないんじゃないか、と思わせてくれる。
で、どちらもやってるこの作品は、やっぱり「良いラノベ」と言ってもいいと思う。
そんな作品です。

ただし、注意。

イタいです。
とてもイタいです。

「イタい」は別に褒め言葉でも貶してるわけでもない。
でも、「イタい」ものは「イタい」。
いや、主人公の信念が「イタい」とか、いわゆる「カッコイイ台詞」が「イタい」んじゃない、それは全く違う。
いや、そっちも「ややイタい」というか、厨二病全開なのですが……


ただただ、「イタい」んです。
時折「うわぁ」ってなります。
僕は嫌いじゃないけど、嫌いな人かなり多そう。

で。
後書きはもう「イタい」通り越して「痛い」です。

「オタクこじらせたミサワ」です。マジです。

寝てないアピールは確かなかったと思いますが、滅茶苦茶近いですね。


……でも、僕はこの作品(絵+文章)を生み出せる作者を物凄く尊敬しているので……
「やっぱこれだけの小説生み出せる人ってぶっ飛んでるんだなぁ」と思いつつ、自分はまだまだ甘い、痛さが足りないと思いながら読んでます。
痛みが足りないって何か悪役みたいでカッコイイね。

あ、もちろん後書きの痛々しさは作品の質を一切損ねるものではないのでご安心ください。僕も批判の意図で書いてるわけじゃなくて、ある意味感動を伝える意図で書いてます。


いやーマジで榎宮先輩リスペクトっすわー。
マジで。


……『ノーゲーム・ノーライフ』、オススメのラノベです。
1巻が面白くないと感じた人も、2巻を読む価値はあると思いますよ。

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